- 保護した時から猫風邪で涙目が治らない
- ヘルペスウイルスは身体から外に出て行かないから治らない?
- 目薬を付けているときは落ち着くけれど、完治が難しい
- 付き合っていくしかないのかな…?
子猫の頃からの涙目が、成長した後もくすぶっている場合がよくあります。
人間の場合は、目ヤニや涙目で眼科に行くことはあまりないと思いますが、
おうちの猫さんの涙目は気になるものです。
100%の完治を目指すのは、正直、難しい場合が多く、
"許容範囲"を見つけて付き合っていくことが多いです。
とはいえ、「○○してみたら?」という選択肢もありますので、参考にしてみて下さい。
原因は?
猫の涙目の原因を考える際、"感染症"か"感染症ではないもの"か、まずは2つに分けて考えます
感染症
感染症の原因になるものは"微生物"です。
微生物には大きさが小さい順に…
- ウイルス(ヘルペスウイルス、カリシウイルスなど)
- クラミジア(ウイルスより大きく、細菌よりも小さい)
- 細菌(マイコプラズマ、ボルデテラなど)
が挙げられます。
原因は、1つの微生物とは限りません。
むしろ、複数の微生物が混合感染している事の方が多いです。
- 抗生物質(抗菌薬)は、ウイルスには効きません
- 抗ウイルス薬は細菌には効きません。
原因の微生物を特定すると治療薬の選択につながるので、治療の近道になります。
感染症以外のもの
微生物の感染以外に考えられるものとしては、次のようなものが考えられます。
微生物の感染と、同時に起こっていることも考えられます。
- アレルギー (植物・食物)
- 栄養不良 (免疫力の低下)
- 物理的な構造的な問題 (さかさまつげ・鼻ぺちゃの品種)
季節が限定されるような症状の場合、植物などのアレルギーを疑います。
目、口の周り、お腹周りの皮膚にかゆみや発疹がある、
便がいつも軟らかいなど・・・
他の症状がある時は、食物アレルギーを疑う場合もあります。
そもそも涙は、有害な物質を身体に入れないための身体の防御反応なので、
免疫機能と関わりが強い物質です。
子猫で栄養素が不足し、外で耐えていたような子は、
栄養状態の改善がまず第一に必要です。
感染症以外の原因、3つ目は、構造的な原因です。
"病気"なのか"病気ではない"のか、体質も関わってきます。
逆さまつげ、短頭種と言った物理的な体のつくりが原因です。
逆さまつげは、本人の苦痛の有無によって治療すべきかどうか判断が分かれます。
短頭種(ペルシャ、エキゾチックショートヘアなど)は、
涙の通り道(涙管)が狭い子が多く、鼻に抜ける涙が逆流して、涙があふれるというケースが多いです。
感染症の併発が無い場合、抗菌薬などの投与は必要ありません。
付随する症状
涙目(流涙症)は、ただ涙が出るだけではなく、他の症状とセットで現れる場合が多いです。
例えば・・・
- 鼻水(鼻汁)が出る
- 目ヤニが出る
- 口臭・歯周病が出る
といったケース。
また、症状は両目に出る場合、片方だけに出る場合、
痛み、痒みを伴う場合、本人の自覚症状は無い場合、
と、様々なパターンが考えられます。
原因を探る"検査"
検査には、次のようなものがありますが、
「何か見つかるといいな」と、あれもこれも検査するのではなく、
「○○を判断(診断)する」という目的をもって、順序よく行う事が重要です。
- 顕微鏡検査
- PCR検査
- (細菌)培養検査
顕微鏡検査
目ヤニや、涙、分泌物を顕微鏡で観察します。
ウイルスは小さすぎて、通常の顕微鏡では見えません。
細菌、白血球、結膜の細胞の観察を目的に検査します。
細菌感染、白血球の有無(アレルギー性?化膿性?)、クラミジアの足跡のようなもの・・・。
犯人を見つける証拠集めの検査です。
顕微鏡検査は、基本的な方法ですが、起きていることが実際に見る事ができる興味深い検査です。
細菌培養・同定・薬剤感受性試験
顕微鏡で細菌感染が疑われた場合、細菌の形(丸い、楕円形、細長いなど)は判りますが、
「これは○○菌です!」という判定をすることは難しいです。
分泌物を、培地に植えて人工的に増やして、検査に使う方法を細菌培養と言います。
培養した細菌の特徴によって、「これは○○菌です」と突き止める検査を、"菌種同定"といいます。
- 感受性試験
- 培養した細菌を、抗生物質(抗菌薬)の入った培地に入れて、成長するかどうかを確認します。
抗菌薬の中でも細菌が増えているようなら、その抗菌薬は効かない薬。
効果がある抗菌薬を見つける検査です。
PCR検査
ウイルスなどの微生物の検出には、PCR検査が有用です。
ウイルスは通常の顕微鏡では見えないので、ウイルスの成分を検出する事で、ウイルスの感染の証拠と考えます。
ウイルス以外の微生物についても、PCR検査を利用する事ができます。
IDEXX社の結膜炎パネル検査(PCR)では、次の6種類の病原体について、セットで検査が行えます。
- 猫ヘルペスウイルス1型
- 猫カリシウイルス
- クラミジア
- マイコプラズマ
- ボルデテラ
- H1N1インフルエンザウイルス
原因になっている微生物を検出する検査としては、非常に優れていますが、
感染症以外の原因も隠れて併発している場合もあるので、
結果にこだわり過ぎない事も必要です。
猫の涙目の治療・ケア方法は?
薬を使う方法には、以下のようなものがあります。
薬の投与方法は様々で、点眼薬・眼軟膏・経口薬・ネブライザーなどが挙げられます。
抗ウイルス薬
動物用医薬品として認可されている唯一の抗ウイルス薬は、IDUセンジュ(千寿製薬)です。
有効成分はイドクスウリジン。
2021年5月に販売が開始された比較的新しい薬ですが、1960年代から人体用薬で発売されていた経緯があります(現在は販売中止)。
【効能・効果】は猫ヘルペスウイルスによる眼科的症状の軽減
【用法】1回1滴、1日6回点眼
なかなか1日6回の点眼は、ハードルが高いかもしれません。
若齢猫に対する安全性は確立されていません。
効果判定は15日を目安に。改善傾向があれば継続、無ければ他の治療方法へ。
副作用として、眼痛、結膜炎/角膜炎の悪化、角膜潰瘍、ときに嘔吐、食欲低下など
安全性試験において、高頻度に軽度の結膜充血がみられた。
15日間投与による有効率(著効+有効)は、50.9%(38.3~63.4%)。
この数字の感じ方は様々かと思います。
全身への影響は比較的大きい薬剤なので、飲み込む恐れがある"点鼻投与"はできません。
その他、猫インターフェロンω(インターキャット)の、抗ウイルス作用が知られています。
インターキャットの添付文書内での効能・効果は猫カリシウイルス感染症のみが記載されていますが、
ヘルペスウイルスについては、培養細胞を用いた薬効薬理試験(in vitro試験といいます)での効果は確認されています。
抗生物質
抗生物質はウイルスには効果は無く、細菌感染への対応に用いられます。
動物用医薬品でよく用いられるものは、ペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系、の抗生物質です。
抗生物質は、昔から使われているものから使うのが原則で、
耐性菌(抗生剤が効かない細菌)の蔓延を防ぐため、
ニューキノロン系や、コンベニアなどの比較的新しい薬を、第一選択で使う事は好ましくありません。
また、細菌の感染が無い場合は使う必要はなく、可能な限り、グラム染色などで細菌の特徴を把握しておくことが望ましいです。
※グラム染色:○○菌だからこの抗生剤、という根拠になる検査。
抗生物質は、動物用医薬品の範囲だけでは十分ではないため、人体用の医薬品を用量計算して使用する場合も多々あります。
- 目薬を使用する際の注意 (目薬の使用期限)
- 動物病院で処方される目薬は、防腐剤が入っていないものが多く、開封後はあまり日持ちしません。
通常、3週間前後は使用可能と考えますが、1週間ほどで傷んでしまう事も考えられます。
使い切らなかった目薬は、保存せず、症状がぶり返した場合は、その都度処方を受けられて下さい。
【参考記事】
抗アレルギー・抗ヒスタミン薬
分泌物の顕微鏡検査で、細菌感染が無く、好酸球というアレルギーに関与している白血球がみられる場合が時々あります。
ほとんどの場合、症状は涙目だけではなく、眼の淵やまぶたの裏側が赤くなっている、結膜炎が起こっています。
自覚症状(痒み・違和感)がある場合は、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬などで炎症を抑える場合があります。
飲み薬、あるいは点眼薬を用います。
抗炎症薬
発赤、腫脹などの炎症反応が強い場合、ステロイド系の抗炎症薬を使用する場合があります。
ステロイド系の消炎剤は、消炎効果は高いものの、感染症の悪化や傷の治癒が遅れてしまうため、
投与量や、投与期間は慎重に判断します。
気道粘膜調整剤
涙目とともに、鼻の症状(副鼻腔炎の症状)がひどい場合、
呼吸を楽にする、鼻汁の粘度をサラサラにするための薬を使用する場合があります。
経口薬、もしくはネブライザーでの投与になります。
※人体用医薬品を用量計算して使用
サプリメント
眼の健康をサポートするサプリメントには次のようなものがあります。
- L-リジン
- アスタキサンチン
- クルクミノイド
- ビタミンE
- ラクトフェリン
このうち、比較的多用されているものが「リジン」というアミノ酸です。
リジンを推奨する獣医師は多いですが、否定的な論文も見かけます
【参考文献】
Lysine supplementation is not effective for the prevention or treatment of feline herpesvirus 1 infection in cats: a systematic review
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26573523/
- リジンはアルギニンレベルを下げる
- アルギニンレベルが下がるとヘルペスが抑えられる
- 猫ではこの作用が無い
- そもそも猫ではアルギニンレベルを下げると危険
とくに上記の論文は、
サプリメントによるリジンの過剰摂取によって、ヘルペスウイルスの感染頻度や疾患重症度の増加の報告を示唆しており、
リジンのサプリメント摂取を止めるよう推奨しています。
ヘルペスウイルスに対するリジンの使用については、意見が分かれているため注意が必要です。
リジンに限った話ではありませんが、サプリメントでアミノ酸を補給する場合、単独の栄養素に片寄った配合のものよりも、
色々な栄養素をまんべんなく、バランスよく摂ることが重要です。
とくに、必須アミノ酸は、全く摂取できないと欠乏症が起こりますが、通常の食事で摂取必要量は補えるはずだからです。
肉食獣の猫は、アミノ酸の中でも特に「アルギニン」が不足すると、
体内のアンモニアを処理できなくなり、危険な症状に陥ります。
予防・蔓延の防止は可能?
ヘルペスウイルス感染して、体内に定着してしまった場合、なかなか治療は難しいので、
可能な限り予防・蔓延防止に力を注ぎたいものです。
ワクチン
猫の3種混合ワクチンは、コアワクチンと呼ばれる3つの病気を予防するワクチンです。
- 猫汎白血球減少症 (パルボウイルス)
- 猫伝染性鼻気管炎 (ヘルペスウイルス)
- 猫カリシウイルス感染症
3種ワクチンは、感染した場合の治療のために使われるものではなく、
感染予防、あるいは感染した場合の症状の軽減を目的に接種されます。
多頭飼いの場合の、まん延防止の役割も担います。
手洗い・手指消毒
いわゆる猫風邪の原因になりうるウイルスには、
ヘルペスウイルスと、カリシウイルスの2種類があり、どちらか単独の感染の場合もあれば、
複合(混合)感染している場合も考えられます。
ヘルペスウイルスと、カリシウイルスの大きな違いに、アルコール消毒可能かどうか、という点があります。
ヘルペスウイルスはアルコールで不活性化しますが、カリシウイルスはアルコール消毒が無効です。
猫風邪症状のある子のお世話をした後、
別の子を触る前に手洗いと手指消毒する事は、
基本的な感染症対策ですが、とても大切です。
まとめ
原因は?
感染症か?感染症ではないか?
付随する症状は?
鼻の症状は?
症状は片側?両側?
原因を探る検査は?
顕微鏡検査、細菌培養(薬剤感受性試験)、PCR
あれもこれも検査するのではなく、
「○○を判断(診断)する」という目的をもって、順序よく行う
治療・ケア方法は?
抗ウイルス薬、抗生物質、抗アレルギー/抗ヒスタミン薬、抗炎症薬、気道粘膜調整剤、サプリメント
予防・蔓延防止方法は?
ワクチン、手洗い、手指消毒