
- 点滴では栄養は摂れないから、食べてもらうしかないと言われた
- 猫さんが強制給餌を嫌がって心が折れそう
- でも、せっかく頑張ってくれるのだから、回復に重要な栄養素が知りたい
病気と付き合っていくためには、栄養学的なサポートが重要ですが、
病気の種類やステージによって、必要な栄養素も違います。
正確な情報を得るためには、獣医師や動物病院のスタッフと連携することも大切です
栄養管理によって予後が変わる
適切な栄養で猫の命を延ばせる
適切な栄養管理によって、予後(生存期間)や退院までの期間が変わるというデータがあります。
Nutritional requirements of the critically ill patient
重症患者の栄養要求量
Clin Tech Small Anim Pract. 2004 Feb;19(1)
An investigation of the relationship between caloric intake and outcome in hospitalized dogs
入院犬におけるカロリー摂取量と予後の関係の検討
Vet Ther. 2001 Fall;2(4):301-10.
信じられないかもしれませんが、
適切な栄養管理によって、生存期間や退院までの期間が延びることが多々あります。
特に慢性腎臓病の猫さんの体重や筋肉量の変化を追うと、病態の進行との関連が見られます。
》【お家で簡単!】猫の慢性腎臓病の早期発見3つの方法!SDMAだけじゃない!
とくに1か月で体重が10%以上減少している場合は、注意が必要です。
どれくらいの量を食べられると良いですか?
猫さんが十分に食べられているか気になる方も多いと思います。
病気の状態によっては、
「無理しない(吐かない)ペースで、食べられるだけ食べさせてください」
とお伝えする事もあります。
でも充分食べられているのか不安になりますよね。
栄養管理に役立つ2つの目安を紹介します。
目標カロリー
安静時エネルギー要求量(RER)という数値
生存のために最低限必要な目標カロリー
求め方は、
電卓で体重(kg)x体重(kg)x体重(kg)、
√(ルート)、√(ルート)、
出てきた数字にx70
計算例
(例) 3.5kgの場合、
3.5x3.5x3.5=42.875
√、√で、2.55888
x70で、179.12
RER(安静時エネルギー要求量)は、179kcalとなります。
1日の水分必要量
水分の必要摂取量は、
- 60mL x体重(kg) 体重3.5kgなら、60 x3.5=210mL
- RER(安静時エネルギー要求量) x1.2 体重3.5kgなら、179 x1.2=215mL
のどちらかで、おおよその量を計算します。
自宅での強制給餌・シリンジ給餌によく使われるフード(例)
カロリー | 炭水化物 | 脂質 | タンパク質 | |
アペ | 150kcal /1缶(183mL) | |||
クリティカルリキッド | 105kcal /100g | 19.4g /400kcal | 19.8g /400kcal | 31.2g /400kcal |
腎臓サポートリキッド | 108kcal /100g | 24.1g /400kcal | 20.4g /400kcal | 26.0g /400kcal |
カロリーエースプラス | 90kcal /100g |
カロリー | 炭水化物 | 脂質 | タンパク質 | |
回復期ケア a/d | 118kcal /100g | 2.7g /100kcal | 6.7g /100kcal | 9.0g /100kcal |
スペシフィック リカバリー | 129kcal /100g | 4.0g /100kcal | 5.8g /100kcal | 9.3g /100kcal |
退院サポート | 127kcal /100g | 3.1g /100kcal | 5.1g /100kcal | 10.0g /100kcal |
カロリーエース ムースタイプ | 90kcal /100g |
カロリー | 脂質 | タンパク質 | |
T.D スーパーハイカロリー | 100kcal=15.3g | 8.44g以上 /100kcal | 4.45g以上 /100kcal |
T.D 猫用 キドナ | 100kcal=20.2g | 5.05g以上 /100kcal | 6.46g以上 /100kcal |
T.D ハイカロリー/高たんぱく | 100kcal=19.6g | 5.48g以上 /100kcal | 8.42g以上 /100kcal |
栄養素の不足による身体の反応には2つある
健常時と重症疾患時で、エネルギー摂取が制限された際の体が示す反応が異なります。
健常時は脂肪を燃焼しますが、重症疾患時には体内のタンパク質や筋肉を消費します。
健常時
減量(ダイエット)など、健常時にエネルギー摂取を制限した場合は、
タンパク質よりも脂肪を燃焼させて必要なエネルギーを補填します。
重症疾患時
一方、重症疾患で飢餓状態にある場合は、タンパク質やアミノ酸を消費するため、アルブミンやグロブリンといった、体内のタンパク質、筋肉を壊しながら体の維持を図ります。
(異化亢進といいます)
食べ物(栄養素)を腸に入れる事にこだわる理由

動物の場合、点滴では必要な栄養素は十分補えません。栄養サポートでは、とにかく食べる事、食べさせる事にこだわります。
※点滴をきっかけに食欲が出る場合がありますので、点滴に意味がない訳ではありません。
腸の管腔側(食べ物が通過する側)は、腸絨毛というカーペットの表面のような構造で覆われています。表面積を広げる事で、栄養素をしっかりと吸収するための構造です。
腸という臓器は、身体側の毛細血管から、管腔側から、2方向から栄養素をもらっている臓器だと考えられています。

腸管に食べ物通過しない状態が続くと、腸絨毛に栄養素が行きわたらず、絨毛が剥がれたり、退化してしまいます。
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