- ずっと皮下点滴だけど、静脈点滴の方が効果があるの?
- 静脈点滴だと入院になるのか…。実際のところ、どれくらい違うんだろう??
- 頑張って治療を受けてもらうんだから、絶対に後悔したくないな…
他のお家の猫さんが、違う治療を受けていると、ちょっと不安になるものです。
高齢になればなるほど、猫さんと慢性腎臓病は隣り合わせ。
獣医師になって20年間、たくさんの慢性腎臓病の猫さん・飼い主さんと接しました。
と同時に、私自身も2017年に19歳だった愛猫を慢性腎臓病で亡くしました。
皮下点滴、静脈点滴、それぞれにメリット・デメリットがあります。
この記事では、それぞれの「仕組み」、「効果」、「苦痛」という視点で、似ているところ、違うところを解説します。
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薬が効くためには…(点滴の仕組み)
点滴に限らず、薬が効くためには、血管の中に薬の成分が入り(吸収)、血流に乗って全身に行き渡ること(分布)が必要です。
薬を身体に入れる方法(投与経路)は、
次のようなものがあります。
- 経口投与 (飲み薬)
- 皮下投与 (注射)
- 筋肉内投与 (注射)
- 静脈内投与 (注射)
- 外用薬 (塗り薬)
- 経粘膜投与 (坐薬/舌下)
投与方法によって、薬剤が身体に行きわたるまでのスピードが違います。
先ほどの6つの中では、静脈内投与が一番早く効果が表れます。
皮下投与・筋肉内投与は、静脈内投与に比べると少し時間はかかりますが、
毛細血管から吸収されて、身体の循環(血の巡り)に乗って、薬が届きます。
皮下点滴と静脈点滴の違い (1)
静脈点滴に比べて、皮下点滴は、効果が表れるまでに少し時間がかかる。
飲み薬(経口投与)は、口から胃を通過して、腸から吸収されます。
一度、肝臓を通過してから薬の成分が血管へ流れ込むので、注射と比べると、さらに時間がかかります。
薬の効果は違う??
薬の効果自体には違いはありません。
早く効いてほしい、緊急的な薬剤の投与は静脈内投与を行うのが基本です。
状態が落ち着いている場合は、皮下点滴でも十分な効果が期待できます。
静脈点滴は、尿毒症が進行している場合や、今までと違う症状が出た場合などに、提案される事が多いです。
皮下点滴と静脈点滴の違い (2)
- 脱水の緩和が目的なら、効果に差は無い。
- 症状改善を急ぐ場合は、静脈内投与の方が早い。
- 皮下点滴は、ゆっくり病気とお付き合いする"慢性疾患"向けの方法。
動物が受けるストレス、痛み、苦痛に違いは?
静脈点滴・皮下点滴、共通のストレスや苦痛には次のようなものがあります。
- 拘束 (移動の制限)
- 皮膚に針を刺す痛み
- 体内に液体が入る違和感
それぞれについて、皮下点滴と静脈点滴の違いを挙げてみます。
拘束(移動の制限)
皮下点滴の場合、拘束時間は数分です。
静脈内には急速に大量の投与はできません。
そのため、静脈点滴の場合は入院して時間をかけて点滴する必要があります。
※午前中に入院、夕方まで点滴、夜はお家で過ごす、という半日入院の場合もあります。
皮膚に針を刺す痛み
静脈点滴の場合、腕の血管に"留置針"というカテーテル(管)を入れて、そこから点滴を入れます。
一度、管を入れれば、血管から抜けなければ数日間残しておくことができます。
管に針を刺すので、点滴のたびに身体に刺す必要はありません。
留置針が血管から抜けないように、接着包帯などを腕に巻きます。
包帯がストレスになったり、腕先が浮腫(むく)むことがあります。
皮下点滴の場合は、留置針を使う事はありません。
点滴のたびに針を刺します。
体内に液体が入る違和感
点滴に使用する乳酸リンゲル液には刺激性はほとんどありません。
吐き気止めやビタミン剤などを混和した場合は、痛みを感じる場合があります。
症状によって、投与経路を使い分ける場合もあります。
また、点滴の温度や投与スピードによっても、違和感・ストレスが変わります。
皮下点滴と静脈点滴の違い (3)
- 行動制限 静脈点滴は入院が必要で、点滴中は移動不可。皮下点滴は数分で完了し、拘束時間が短い。
- 痛み 静脈点滴は留置針の装着で一度だけ針を刺す。皮下点滴は毎回針を刺すが、多くの猫が慣れる。
- 違和感 静脈点滴、皮下点滴ともに、液体の刺激や違和感を感じることがある。
皮下点滴も、静脈点滴でも、点滴の目的は脱水の緩和です。
脱水が緩和された場合、点滴の量や頻度を、その都度見直す必要があります。
必要が無いのであれば、何となく点滴を続ける必要はありません。
》【脱却可能?】~猫の腎臓病~皮下点滴に頼らずに脱水を改善できるか?
栄養素のサポートが必要
動物の場合、点滴では必要な栄養素は十分補えません。
栄養素のサポートは、とにかく食べる事、食べさせる事にこだわります。
※点滴をきっかけに食欲が出る場合があります。
(補足)慢性腎臓病以外の点滴
リンパ腫など、抗がん剤の化学療法薬は、皮下投与できないものがほとんどです。
静脈点滴で投与しますが、左手・右手どちらの留置針の管(カテーテル)も抜けてしまうと、しばらくの期間、静脈投与できなくなる場合があります。