猫の慢性腎臓病の合併症 ~貧血~
猫の慢性腎臓病(CKD)は、貧血を引き起こすことがあります。
貧血は、血液中の赤血球が減少し、体内の組織に十分な酸素が供給されなくなる状態を指します。
この状態が進行すると猫の活動量が低下し、病気の進行を加速させる要因になります。
貧血が発生するメカニズム
腎臓は、赤血球の生成を促す「エリスロポエチン(EPO)」というホルモンを分泌しています。
このホルモンは骨髄に働きかけて赤血球を作らせる役割を持っています。
腎臓病が進行するとEPOの分泌量が減少し、赤血球が十分に生成されなくなります。
さらに、以下のような要因が、「貧血を悪化させ」ます:
- 尿毒素の影響
腎臓の機能が低下すると、尿毒素が血液中に蓄積し、赤血球の寿命を短くします。 - 栄養不足
食欲不振によって、鉄分やビタミンB12など、赤血球の生成に必要な栄養素が不足します。 - 出血
尿毒症により、胃腸の粘膜が損傷して消化管出血が起こる場合があります。
貧血の症状
慢性腎臓病による貧血はゆっくりと進行するため、初期段階では目立った症状は現れません。
- 元気消失:普段より動かなくなり、寝ている時間が増える。
- 食欲不振:食事の量が減少し、体重が減少する。
- 呼吸が速くなる:運動後や安静時に息が荒くなる。
- 粘膜が蒼白になる:歯茎や結膜の色が薄くなる。
- 寒がる:毛布や暖かい場所を好むようになる。
これらの症状が進行すると、猫の日常生活に支障をきたす可能性が高まります。
貧血の診断方法
- 血液検査
- ヘマトクリット値(HCT):赤血球の割合を測定します。基準値は30~45%程度で、これを下回る場合は貧血が疑われます。
- ヘモグロビン濃度:赤血球中の酸素運搬能力を確認します。
- 網状赤血球数:貧血が起きた時に補充される、出来立ての赤血球。身体が、「きちんと貧血に対応しているか」を判断。
- 尿検査
尿に血が混ざっている場合や、尿毒素が高い場合は、貧血の進行原因を特定する手がかりになります。 - 消化管の検査
消化管出血が疑われる場合は、内視鏡検査や便の潜血反応検査を行います。
貧血の治療方法
貧血の治療は、腎臓病の管理と並行して行われます。主な治療方法は以下の通りです:
1. エリスロポエチン製剤の使用
腎臓が十分なEPOを生成できてない場合、EPO製剤を投与することで赤血球の生成を促します。
副作用との兼ね合いもあり、獣医師との相談が大切です。
2. 鉄分やビタミンB12の補充
赤血球の生成に必要な鉄分やビタミンB12を補うことで、貧血を改善します。
鉄分補給はサプリメントが一般的です。
ビタミンB12は、サプリメントのほか、皮下点滴の中に混和する場合もあります。
3. 食事療法
栄養学的な観点に基づいたフードは、赤血球の生成に必要な栄養素が充分含まれています。
「栄養素のバランスの改善」も重要です。
4. 消化管出血の治療
胃腸の粘膜が損傷している場合は、胃酸を抑える薬(H2ブロッカー)や、胃粘膜保護薬(テプレノンなど)を使用します。
5. 輸血
重度の貧血が見られる場合、一時的な改善策として輸血が行われることもあります。
※原因の根本的な解決にはなりません。
まとめ
貧血は猫の慢性腎臓病における重要な合併症の一つです。
猫の貧血の初期症状は分かりづらく、いつのまにか進行している場合がほとんどです。
日常の観察や、定期的な健康診断を通じて、適切な治療を行うことが大切です。