【参考文献】
『アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)合意声明 - 犬と猫における全身性高血圧の同定、評価および管理のガイドライン』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/javnu/12/1/12_50/_pdf/-char/en
を参考にさせて頂きました。
猫の慢性腎臓病の合併症 ~高血圧~
高血圧は、猫の慢性腎臓病(CKD)の進行に伴い、よく見られる合併症です。
腎臓は「血圧の調節」に重要な役割を果たしています。
※レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系、といいます。
腎機能が低下すると、血圧が正常にコントロールできなくなることがあります。
高血圧は、「心臓」や「脳」、「目」など全身に影響を及ぼし、病気の進行を加速させる原因になります。
高血圧が発生するメカニズム
腎臓は、体内の「塩分や水分バランスを調節」し、「血圧を正常に保つ」働きをしています。
腎臓病によって、次のような悪影響が生じます。
- 循環体液量の増加
腎臓が余分な塩分や水分を排出できなくなると、血液量が増え、「血圧が上昇」します。
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の異常
腎臓病によりホルモン調節が乱れ、「血管が収縮」し血圧が上がります。
- 血管の柔軟性の低下
腎臓病が進むと「血管」が硬くなり(動脈硬化)、血流に対する抵抗が増えて高血圧を引き起こします。
高血圧が引き起こすリスク
高血圧によって生じる合併症 | 徴候 | 検査・診断方法 | |
腎臓 | 慢性腎臓病の進行 | 尿毒症、タンパク尿 | 血液検査(BUN,Cre)、尿検査(タンパク尿、尿比重) |
眼 | 網膜症、脈絡膜症、継続性緑内障、滲出性網膜剥離 | 急性盲目症、網膜出血、 | 眼科検査(眼底検査など) |
脳 | 脳梗塞、脳発作 | けいれん発作、虚脱 | 神経学的検査、画像検査(MRIなど) |
心臓や血管 | 左室肥大、心不全 | 心臓発作、不整脈、鼻血 | 聴診、画像検査(X線、超音波エコー) |
高血圧は、以下のような問題を引き起こす可能性があります:
- 腎臓へのさらなるダメージ
高血圧は腎臓の血管に負担をかけ、「腎機能の低下を加速」させます。
- 心血管疾患
血圧の上昇により、心臓への負担が増え、「心肥大」や「心不全のリスク」が高まります。
- 視覚障害
高血圧が進行すると、眼の血管にダメージを与え、「失明」に至ることがあります。
- 脳への影響
高血圧は、「脳出血」や「神経症状」の原因となることがあります。
高血圧の症状
猫の高血圧は、初期段階では、「目立った症状が現れない」ことが多いです。
しかし、「進行すると」次のような症状が、見られることがあります:
- 瞳孔が開いたままになる(散瞳)。
- 「視力の低下」や「失明」。
- 「夜鳴き」、落ち着かない行動。
- 「頻繁な嘔吐」や「神経症状(ふらつきやけいれん)」。
これらの症状が見られた場合、速やかに獣医師の診察を受ける必要があります。
高齢猫の「夜鳴き」については、認知症のような「仕方がない」ものの場合もあります。
ただ、高血圧が改善されると、夜鳴きが緩和される場合もあります。
そのため、夜鳴きの診察の際には、血圧のチェックをして、「高血圧の有無を確認」しておく必要があります。
高血圧の診断方法
高血圧は、血圧測定を通じて診断されます。
猫の正常な血圧は収縮期血圧が 120~160 mmHg 程度とされ、高血圧はこれを超える場合に診断されます。
- 血圧測定
前肢や尾の付け根を使って測定することが一般的です。
- 眼底検査(目の奥にある網膜や血管が見える部分)
「眼底血管の損傷」や「出血」が見られる場合、高血圧が疑われます。
- 血液検査・尿検査
腎臓病の進行具合を確認し、高血圧の原因が腎臓病にあるかを調べます。
家庭用動物用血圧計については、
『正しく測れるの? ★動物用血圧計★ エルデ PES-1700 の使い心地 ~おうちで血圧測定~』
で解説しています。
高血圧の治療法
1. 薬物療法
- 降圧薬の使用
アムロジピンなどの降圧薬が一般的に使用されます。
- 腎保護薬の使用
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬や、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が腎臓へのダメージを軽減します。
2. 食事管理
- 低ナトリウムの療法食
腎臓病用の療法食を導入し、「塩分摂取を制限」することで高血圧の進行を抑えます。
※猫の高血圧と塩分(ナトリウム)摂取の因果関係は、未解明な点もあります。
3. 定期的なモニタリング
「血圧測定を定期的に」行い、薬物療法や食事管理の「効果を確認」します。
まとめ
高血圧は、猫の慢性腎臓病における「重要な合併症」で、腎臓や他の臓器に深刻なダメージを与えます。
日常的な「観察」、「定期的な血圧測定」や健康診断を通じて「早期に異常を発見する」ことが大切です。