- 従来の2.5倍の濃度の赤いセミントラが承認・発売されました。
- 効能は、猫:慢性腎臓病(慢性腎不全)における蛋白尿の漏出抑制。全身性高血圧症の治療。
- 高血圧を併発している慢性腎臓病は、病気の進行が速いので注意が必要です。
- 高血圧があるかどうかの診断は、特に慎重に行います。
- 高血圧がある場合は、腎臓、眼、脳、心臓と血管へのダメージを注意深く経過観察します。
セミントラ 10mg/mL経口液が承認・発売

赤色に水色ラインのラベルのセミントラが承認・発売されました。
こちらは、タンパク尿を抑える事と、高血圧の治療を目的に処方されます。

「セミントラ」を処方されている慢性腎臓病の猫さんは多いと思います。
水色に赤いラインのラベル。
「テルミサルタン」という有効成分(薬品名)の飲みぐすりです。
タンパク尿を抑えることが目的で処方されます。
2つの違いは? 濃度と適応の効能・効果
ポイント
一言で書くと・・・
- 赤いセミントラは、「高血圧を改善させる薬」(タンパク尿の改善も含む)
- 青いセミントラは、「タンパク尿を改善させる薬」
慢性腎臓病の猫さんに処方されるセミントラですが、
腎臓の機能を回復させる作用はありません。
タンパク尿や高血圧は慢性腎臓病を悪化させる要素なので、その進行スピードを抑えることが目的です。
高血圧について・・・

慢性腎臓病と高血圧を併発している場合、高血圧が心臓•血管、眼、脳へ悪影響を及ぼす事があります。
標的臓器障害といい、次のようなものが知られています。
高血圧によって生じる合併症 | 徴候 | 検査・診断方法 | |
腎臓 | 慢性腎臓病の進行 | 尿毒症、タンパク尿 | 血液検査(BUN,Cre)、尿検査(タンパク尿、尿比重) |
眼 | 網膜症、脈絡膜症、継続性緑内障、滲出性網膜剥離 | 急性盲目症、網膜出血、 | 眼科検査(眼底検査など) |
脳 | 脳梗塞、脳発作 | けいれん発作、虚脱 | 神経学的検査、画像検査(MRIなど) |
心臓や血管 | 左室肥大、心不全 | 心臓発作、不整脈、鼻血 | 聴診、画像検査(X線、超音波エコー) |
高血圧かどうかの判断・診断には血圧測定を行いますが、高血圧の診断は、慎重に行う必要があります。
高血圧が無い場合に、血圧を下げる薬を投与すると、低血圧による危険な弊害が生じます。
特に猫さんでは、病院、診察室での血圧は高めに出ることが多く、
時間をかけて何度か測定するか、
場合によっては、ご自宅での血圧測定をお願いする場合があります。
ERDEの動物用血圧計(PES-1700)は、
家庭用の動物用一般医療機器として認可を取得したペットのための血圧計です。
「ERDE」のロゴが入っていない安価な模造品も多く流通しています。
正規品を取り扱われている「いま何度」さんから購入されることをお奨めします。
動物用医療機器製造販売番号:第29-82号
クラス分類 一般医療機器
ポイント
正規品の場合、1年間のメーカー保証もついていて、実際、不具合対応をしていただいた事もあります。
タンパク尿について・・・

健康な腎臓は、コーヒーフィルター(ろ紙)のような、きめ細かい網目を持っていますが、
腎臓病になると、この網目が茶こしのように粗くなり、
尿の中にタンパク質が漏れてしまいます。
慢性腎臓病がタンパク尿を引き起こし、
タンパク尿が慢性腎臓病を悪化させます。
タンパク尿かどうかの判断は、尿検査で行います。
UPC(尿蛋白クレアチニン比)という項目を測定します。(※外注検査になることもあります)

UPC(尿蛋白クレアチニン比) | |
正常(タンパク尿ではない) | < 0.2 |
境界型(グレーゾーン) | 0.2 ~ 0.4 |
タンパク尿 | > 0.4 |
甲状腺機能亢進症の併発の有・無を確認
腎臓病と高血圧は、関連性が特に高い病気ですが、高齢猫さんの場合はもう一つ、「甲状腺機能亢進症」の有無にも注意が必要です。
甲状腺ホルモンの増加によって、
- 体温が上がり↑
- 心拍数や血圧が上がり↑
- 新陳代謝が活発になります↑↑
食欲が増え、"病気"のように見えないのが特徴です。
食べる割に痩せていく・・・という症状から甲状腺ホルモン確認して、病気が見つかる事も多いです
慢性腎臓病と投薬・・・落とし穴に注意
高血圧やタンパク尿に限らず、BUNやクレアチニン、SDMAなど、数字で検査結果が出る事は、
病気の状態把握をわかりやすくしてくれる大切な指標です。
一方で、数値、基準値にこだわり過ぎたり、軽微な変化に落ち込みすぎるのは、
慢性腎臓病の猫のケアで落とし穴にはまってしまう、きっかけになります。
慢性腎臓病の治療(ケア)の目標は完治ではないため、嬉しいゴールというものがありません。
ただ、後から振り返って、
少しでも「○○も、○○も、してあげられた」という思い出を残して下されば、
獣医療者としては少しはお役に立てられたかなと…感じる部分です。