猫の慢性腎臓病の合併症~心血管疾患~
猫の慢性腎臓病(CKD)は腎臓に限らず、全身のさまざまな臓器に影響を及ぼします。
心血管疾患は、腎臓病の進行に伴って発症リスクが高まる重要な合併症の一つです。
腎臓と心臓は密接な関係にあり、腎機能の低下が心臓や血管に負担をかけ、さらなる健康リスクを招きます。
心血管疾患が発生するメカニズム
腎臓病と心血管疾患は、互いに影響を与え合う関係があります。(腎心連関といいます)
1. 高血圧
腎臓が血圧を調節する役割を持つため、腎機能が低下すると高血圧が発生し、心臓や血管に負担をかけます。
2. 電解質異常
特に高リン血症や高カリウム血症は、急性の心不全や不整脈を引き起こす可能性があります。
3. 貧血
慢性腎臓病に伴う貧血は、心臓に負担をかけ、心肥大や心不全の原因になります。
4. 動脈硬化
腎臓病が進行すると、リンとカルシウムの異常なバランスにより動脈硬化が生じ、心臓の負担が増加します。
心血管疾患の症状
猫に心血管疾患が発生すると、以下のような症状が見られることがあります:
- 呼吸困難
- 呼吸が速くなったり、浅くなったりする。(浅速呼吸といいます)
- 寝ているときに胸やお腹が大きく動く。(努力性呼吸)
- 疲れやすさ
- 運動やジャンプを避ける。(運動不耐といいます)
- 活動量が明らかに減少する。
- むくみや腹水
- 脚や顔が腫れる、腹部に水が溜まる。(浮腫)
- 不整脈
- 心拍数が異常に速い、または遅い。(頻脈・徐脈)
- 失神
- 短時間の意識喪失や立ちくらみ。
心血管疾患の診断方法
心血管疾患は、以下の検査によって診断されます:
1. 血液検査
- カリウムやリンの濃度を確認し、電解質異常があるかを調べます。
- 貧血の有無を確認。
2. 血圧測定
高血圧があるかどうかを測定します。正常な血圧は収縮期血圧が120~160mmHgです。
3. 心電図検査
不整脈や心拍数の異常を確認します。
4. 胸部X線検査
心臓や肺のサイズ、形状を確認し、心肥大や肺水腫の兆候を調べます。
5. 心臓超音波検査(心エコー)
心臓の動きや血流を可視化し、心筋肥大や血液の流れを評価します。
心血管疾患の治療方法
心血管疾患の治療は、腎臓病の管理と並行して行われます。主な治療方法は以下の通りです:
1. 降圧薬の使用
- アムロジピンやACE阻害薬(フォルテコールなど)を使用して血圧をコントロールします。
2. 利尿薬の投与
- 腹水や肺水腫がある場合、余分な水分を排出するために利尿薬を使用します。
3. 電解質の調整
- 高カリウム血症や高リン血症がある場合、静脈点滴やお薬で調整します。
4. 貧血の治療
- 貧血が心臓に負担をかけている場合、エリスロポエチン製剤や鉄剤を投与して赤血球を増加させます。
飼い主さんができること
- 日々の観察を徹底する
呼吸の異常や活動量の低下、むくみなどを見逃さないようにしましょう。 - 定期的に獣医師と連携する
血圧測定や心臓の健康チェックを定期的に行い、早期介入を目指します。 - 適切な治療を継続する
血圧降下薬や腎臓病治療薬を獣医師の指導のもとで継続的に使用します。
まとめ
心血管疾患は猫の慢性腎臓病において見過ごすことのできない合併症です。
腎臓病の進行を抑えながら、心血管疾患の早期発見と適切な治療を行うことが大切です。